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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(行ツ)80号 判決

松山市千舟町六丁目五番地一

上告人

松山人形玩具株式会社

右代表者代表取締役

下出清治郎

右訴訟代理人弁護士

黒田耕一

被上告人

右代表者法務大臣

田中伊三次

右当事者間の高松高等裁判所昭和四七年(行コ)第三号行政処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四七年五月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人黒田耕一の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は正当である。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原審の判断を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 大隅健一郎 同 下田武三 同 岸盛一 同 岸上康夫)

(昭和四七年(行ツ)第八〇号 上告人 松山人形玩具株式会社)

上告代理人黒田耕一の上告理由

原判決は、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の解釈適用を誤まつた違法がある。

一、原判決はその理由中において

行政庁が確定判決によつて拘束される限度は、判決の主文及びその判決の主文と一体となつた判決の理由の判断を越えるものではない。

と解釈している。

判決の既判力の及ぼす効力の範囲については、原判決の解釈の通りであるが、

併し乍ら、行政事件訴訟法第三三条第一項に規定される判決の拘束力については、その立法趣旨、行政事計訴訟の特異性等よりみて、原判決の前示認定の如き判決の拘束力を解することは出来ないと思料する。

即ち、右規定は、取消された行政処分と同一目的を追求する行政処分又はこれに附随乃至直接関連する関係行政庁に対しても判決の効力を及ぼし、これ等の行政庁が判決の趣旨に従つて行動することを義務づけることによつて、これ等の行政処分に関する限り国又は公共団体と国民との争いを終らせることをその目的とし、そして又、それを立法趣旨とするものである。

原審の言うが如き確定判決の拘束力をもつてしては、行政事件訴訟法第三三条第一項の規定を特別に存置する必要も理由も無いのであり、当事者以外の関係行政庁においても判決の趣旨に従つて行動することを義務づけているものであり、先ず行政事件訴訟法第三三条第一項の規定には当事者以外の者に効力を及ぼす点において判決の既判力を拡張したものと解し得るのである。

更に又、行政事件訴訟法第三三条第一項の規定の解釈として、行政処分を受ける相手方に対して理由如何に拘らずその結果に対し即ち、その命令に対し拘束をされるのである。

本件について言えば、その理由が理由附記の不備の理由であろうと又は実体的に所得が発生しないが故にその行政処分が違法で取消されたとしても、いずれにしても納税義務は発生しないか又は消滅するのである。

この様に解釈しなければ行政事件訴訟法第三三条第一項を特別に規定したその趣旨が没却されることにもなり又特別に右規定を存置する理由もないのである。

行政処分の性格が一般国民に与える影響を考慮すれば、特にこの様に解釈すべきであろうと思料する。

二、ところで、上告人においては、上告人の法人税の納付義務が高松高等裁判所の判決によつて取消されており、その取消判決を前提として前示行政事件訴訟法第三三条第一項の前示上告人主張の解釈に従えば、当然それと同一事実関係の発生したと称する源泉所得税徴収義務は存在せず、そして又、これに基づく源泉所得税徴収決定が違法で取消されるものであると解釈されるのである。

この点、源泉所得税徴収決定は明らかに重大且つ明白な瑕疵が有り取消されるべきものと思料するのである。

三、尚、源泉所得税徴収義務者が具体的に徴収義務を負うのは、給与等の支払の事実があることを必要とする。

併し乍ら、法人所得について高松高等裁判所の判決により如何なる理由があろうとかかる法人所得の納付義務が確定判決によつて消滅しており(現在まで法人所得についての其の後徴収決定は何等行なわれていない)従つて、その法人所得を前提として支給されたとする本件の認定賞与も勿論ないものと判断するのが前示行政事件訴訟法第三三条第一項の趣旨であり、従つて、認定賞与を支払つたことがないものとして同法によつて解釈すべきであり、その結果課税庁のした本件の源泉徴収所得税徴収決定ないしその処分は重大且つ明白な瑕疵が有るものとして当然無効と解釈され得るものである(東京高判昭和三二年九月三〇日判決例集八巻九号一六二頁。)

以上の通りで原判決は破棄を免れないと思料する。

以上

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